熊本地震から一夜明けた4月15日、菅官房長官は憲法に「緊急事態条項」を設ける必要性について、「今回のような大規模災害が発生したような緊急時に、国民の安全を守るために国家や国民がどのような役割を果たすべきかを、憲法にどう位置づけるかは極めて重く大切な課題だ」と述べた。緊急事態条項は災害対応に必要というのだが、本当にそうなのか。

日弁連の災害復興支援委員会前委員長の永井幸寿(ながい・こうじゅ)弁護士をゲストに招き、語っていただいた。テーマはズバリ、「憲法に緊急事態条項は必要か」。

永井さんは1995年の阪神・淡路大震災で神戸市内の事務所が全壊して以来、一貫して災害関連法制に携わってきたエキスパート。東日本大震災のあとも、被災地に通って助言を続けている。

緊急事態条項とは「国家緊急権」を明文化したもの。
国家緊急権とは「戦争・内乱・恐慌、大規模な自然災害など、平時の統治機構で対処できない非常事態において、国家権力が国家の存立を維持するために、憲法秩序を一時停止して非常措置をとる権限」。
一時停止される憲法秩序とは「人権の保障」と「権力分立」。つまり、「国家緊急権は、最も重要なのが国家であり、そのために権力分立を止めて権力を集中し人権を制約するという危険な制度。歴史的にも多くの国で、野心的な軍人や政治家に濫用されてきた経緯がある」と永井さんは強調した。

自民党の改憲草案には、外部からの武力攻撃や内乱、自然災害などが起きた場合、内閣総理大臣が閣議で「緊急事態」を宣言することや、内閣が法律と同じ効力を持つ政令の制定が可能であることなどが明記されている。さらに、「国民は国その他公共機関の指示に従わなければならない」という記述もある。

永井さんは「自民党改憲案の緊急事態条項は、ナチスと同様の全権委任法で政府の独裁を容認するもの。しかもナチスでは2段階で独裁にたどりついたが、こちらはこれだけで全てを手にいれることができる。制定は『クーデター』ともいうべきものだ」と語った。

では、緊急事態条項は災害に役立つのか。
「災害対策は過去の災害を検証し、これに基づいて将来の災害を予測し、効果的な対策を準備すること。国家緊急権は非常事態が発生したとき、泥縄式に強大な権力で対処する制度で、想定していない事態には対処できない。どんなに権力を集中しても、できないことはできない」と永井さん。災害を理由にした緊急事態条項の創設を、憲法改悪を許してはいけない。