電話インタビュー:今中哲二氏(京都大学原子炉実験所研究員)
聞き手:矢野 宏(ジャーナリスト)
矢野宏:
さて、ここからは、Light Up!ジャーナルです。今日は今中哲二さんと電話が繋がっています。今中さん、よろしくお願いいたします。
今中哲二:
こちらこそよろしく。
矢野宏:
今日のテーマは玄海原発再稼働について、今中さんにお話をお伺いします。九州電力玄海原発差し止めの処分が先日佐賀地裁によって却下されました。安心も安全もないままにまた原発が動き出します。
今中哲二:
そうですね。私も今回このテーマだということで、判決をちらっと眺めていたんですけれども、いわゆる科学的に安全だという言い方がされていますよね、特に裁判所あたりは。
矢野宏:
科学的な安全性?
今中哲二:
科学的に合理的な判断であると。多分これはね、科学的に云々というよりも要するに技術的な話なんですよね。
矢野宏:
技術的な。
今中哲二:
はい、ですからある基準を満たすかどうかという話で、その基準の設定の仕方にまず問題があるという議論ですよね。ですから、その基準以上のことが起きないなんて誰も言っていないわけですよ。ですからみなさんは科学的って言ったら「はあ〜」って思っちゃうけども、もともと新規制基準を決められた時にも話が出ましたけど、この基準を満たしたからと言って安全なわけではありませんよというようなことは規制委員長も言っていたわけですから、私からすると裁判所が判断すべきことというのは、いわゆる原子力発電所というものの存在、今回は再稼働ですけど、再稼働が果たして社会的な正義にあっているものなのかどうか、まずそこの議論をやってほしいですね。
例えば、地震を厳しくしなさいとかテロの対策をしなさいとかいう話がありますよね。例えばテロの話になってきたら我々というか政府をはじめ心配しているのは、北朝鮮からミサイルが飛んでくるんじゃないかというそういう話がありますよね。
矢野宏:
はい、そういう話があります。
今中哲二:
そういったときに、日本海側に原発がたくさんあっていいのかどうかという話も含めて、やっぱりあと玄海原発で言えば周りの自治体で反対しているところもたくさんあるんですよね?
矢野宏:
そうですね、はい。
今中哲二:
それでもちろん私たちも反対していますし、原子力発電所を動かすことそのものがいわゆる社会的に認められていいものなのかどうか、それをまず裁判所で判断してもらいたいですね。それで基準をどうしたらいいのか、それを満たしているかどうかはその後にする話だと私は思っています。
矢野宏:
確かにそうですよねえ。今中さん、もう一つの争点となっている故障の恐れとか地震の揺れなどで配管などが破損して重大な事故になるのではという疑問に対してはどう思われますか?
今中哲二:
はい、もちろんあくまで耐震設計というものも計算上の話ですから例えばどこかに傷があったり施工が悪かったりといったことは起こりうる話です。ですからそういうことを勘案しながら、例えば韓国の文(ムン)大統領ですか?もう新しい原発はやめましょうと。
矢野宏:
はい、そういう決断をされましたね。
今中哲二:
これからはもう原発も減らしていきましょうと。これが政治判断ですよね。
矢野宏:
はい。それで今回の玄海原発の再稼働については特に30㎞圏内の避難計画というのが本当に私はずさんなんじゃないかと思うんですよねえ。というのも30㎞圏内に20の離島があってそのうち16の島には橋がついていない、つまり何かあったら船で避難しなければいけないんですよねえ。船で避難できるわけがないと私は思うんのですが。これについてはどうですか?
今中哲二:
ですからこれはもう私が最初に言ったことに関わりますけれども、そんな避難計画もできないようなものを使ってまで、そんな危ないもので電気を作る必要があるのかどうなのか、これも社会正義のうちですよね。
矢野宏:
そうですね。やはり裁判所にはそういった社会的にどうなのかということをまず判断してほしいということですね。わかりました。今中さん、ありがとうございました。
今中哲二:
どうも、失礼します。
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小出裕章・こいでひろあき
1949年生まれ。日本の工学者(原子力工学)。元京都大学原子炉実験所助教。原子力の平和利用を志して1968年に東北大学工学部原子核工学科に入学するも、放射能被害の実態を知り原子力に反対する立場を取り始める。女川原発の反対運動、伊方原発裁判、人形峠のウラン残土問題、JOC臨界事故など、放射能被害者の側に立って活動、原子力の専門家としてその危険性を訴え続けている。主な著書に『原発のウソ』(扶桑社新書) 、『原発と戦争を推し進める愚かな国、日本』(毎日新聞出版)など。
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今中哲二・いまなかてつじ
1950年生まれ。日本の工学者(原子力工学)。京都大学原子炉実験所助教 兼 京都大学大学院工学研究科都市環境工学専攻助教。瀬尾健とチェルノブイリ原子力発電所事故後の追跡調査を中心に活動した。工学修士。広島県出身。熊取六人衆の1人。
主な著書に『Silent War 見えない放射能とたたかう』(講談社)、『低線量放射線被曝――チェルノブイリから福島へ (叢書 震災と社会)』(岩波書店)、共著に小出裕章、久米三四郎ほか『 「原発の安全上欠陥」原子力技術研究会』(第三書館)など。